費用は?マッペは?ドイツ語は?ドイツの美大受験に必要なこととは?
学校の雰囲気だったり、勉強する内容だったり、ドイツのアート感だったり。
それこそ、受験するにはどうすればいいの?テストって難しいの?
などなど。
美術でドイツ留学を目指すとなると、知りたいことは山のごとく出てきます。
けれど、悲しいかな美大情報のなんと少ないこと。
「ドイツの美大生からリアルな声を聞きたい!」ワケなのですが、ドイツアートに関する情報って多くはないです。
そこで立ち上がってくれたのが、ベルリンのアート教室『Atelier HY+』です。
「ちょっと卒業生に聞いてみますね」と話しが進み、ドイツの美大に通う本名ひみつのハンドルネームT.Hさんが、「いざ、疑問にお答えしましょう!」と立ち上がってくれました。なんという感謝!
さっそく、ドイツでの大学受験、美術や学校についてご紹介したいと思います。
目次
ドイツ美大で勉強してることは?
ニュルンベルク芸術アカデミーの絵画のクラスに所属しているT.Hです。
学校では主に油絵を製作しています。
油絵以外には、学校は2年目になると、基本的に何をしても自由なので、シルクスクリーンと金工の工房でも製作していました。
あとは、開催されるセミナーやワークショップにも参加したりしています。
入学したての頃は、必修科目で基礎コース(Basis)や美術史(Kunstgeschichte)も勉強して、photoshopも勉強しました。
留学先にドイツを選んだ理由は?
幼い頃からいつか海外で生活してみたいという想いがあったからです。
海外で生活するなら、絶対ヨーロッパがいいなと思っていたんです。
ドイツなら治安もいいし、物価も安いのでドイツに決めました。
活動の舞台をドイツに移すことで変化はありましたか?
学生が活動する場所としては、日本よりもドイツのほうが、たくさんの可能性があるように思います。
例えば、アカデミーを通してでも、自分の作品を発表する機会がたくさんあるんです。
文化祭やクラスの合同展示などはもちろん、街のカフェやギャラリーでも作品を展示することがあります。
展示ができるか、まずはダメもとで先ずは問い合わせてみれば、話が進むことだってあります。
個人でもグループでも、単純に発表する場所は日本にいる時よりも割と簡単に見つけられるように思います。
ただ、それは私が今は学生だからで、学生だから良心的に作品を発表できる場所を提供してもらえている、という面もあります。
ドイツと日本で作品に求めるものは違う?
違いますね。
日本では、作品の完成度を主に求められるのですが、アカデミーでは『何に興味があって』『どう表現したいのか』、その表現したいことが形になるまでの『プロセスはどうだったのか』をしっかり説明しなくてはいけません。
私のクラスでは、週に一度クラス内での講評会(Klassenbesprechung)があって、半年に一度自分の作品をクラスで講評し合います。
もちろん、作品自体の良し悪しも講評のうちなのですが、みんなが知りたいのは、作品の中身についてです。
作品が経過途中であっても、まだアイデア段階であっても、それらを発表することは全く問題ありません。
個人の興味やアイデア段階ではあるけど、みんなで共有して、協議して、作品を完成させたり、時にはさせなかったりします。
しっかりとした作品をつくるより、その過程を重視することが求められているんです。
ドイツのアートで驚いたこと、新しい発見はありました?
現在のドイツのアートは、作品に製作者の意思を強く持たせるような印象があるように思います。
私は見る人がどう思うのか、それこそ、私の作品を見て楽しくなってくれたらいいな、と思っています。
けれど、美術館やギャラリーで見かける現代のドイツ人アーティストの作品は、「見て!分かって!」と自己主張が強すぎる作品もあるので、鑑賞した後にどっと疲れることがあります。
絵画ならキャンバス上に制限はないので、それこそ、やりたい放題な作品もあります。
ただの滅茶苦茶な絵でも、大きな美術館に展示されていると、まるでドイツを代表する作品のようにも見えるので、「これが今のドイツアートなの?」と気後れしてしまうこともあります。
ドイツに留学してよかったと思うことは?
ドイツのアカデミーは、学科や学年などの垣根が全くないんです。
それこそ、絵画クラスの学生でも、金工や彫刻の製作をしたくなったら、いつでも製作することができます。
これは、とても大きなメリットです。
好きな時に好きな作品を製作をできるからこそ、色々な技術や素材を知ることができます。
それに、ドイツの学生は本当にいろんな人がいます。
国籍はもちろん、年齢もバラバラだし、子供がいる学生もいれば、子供と一緒にアカデミーに来て作品を製作したり、講義を受けている生徒もいます。けっこう自由ですよね。
いろんな人と知り合って、その人を通してまた新しい発見があって、毎日はすごく楽しいです。
ドイツ語はどう勉強しました?
ドイツに来る前に3ヶ月、日本で初心者のドイツ語コースに通っていました。
ドイツに来てからも、勉強は初心者コースからスタートしました。実際、日本で勉強した3ヶ月間の内容は、ドイツでは3日で終わってしまったんですけどね。
それでも、ドイツ語の基本を日本語で勉強しておいて良かったと思っています。
ドイツでは、ほぼ全ての芸術アカデミーで入学にあたって、最低でもB2のドイツ語力を求められます。
語学能力の証明書を提出しないくてもいいアカデミーでも、外国人留学生であれば、B2レベルの実力は学業において必須です。
このB2までの道のりが、私にとってもはスゴク大変でした。私はB1もB2のコースも、どちらも2回受講しましたし。
大切なのは、どれだけドイツ語を日常で使うかだと思います。
私は、できるだけ普段の生活でもドイツ人と話すようにしていました。
それこそ、ドイツ人と一緒の家に住んだり、語学学校でも出来るだけ日本人とは話さないようにしたり。
これが精神的にとてもキツかったです。
受験用のポートフォリオはどうやって作成しました?
ドイツの美大受験では、行きたいアカデミー、もしくは教わりたい教授との面接があり、マッペ(作品集)がとても重要になります。
なので、受験の直前まで、出来るだけたくさん作品を作ることが大切です。
教授は、受験生がどんな可能性を持っているのかを見ています。
面接時間はとても短いので、作品をどう見せるか、どこを強くアピールするかが重要になります。
それに、絵画クラスを受験するからといって、絵だけで勝負しなければならない、という決まりもありません。
写真や立体作品を持ち込んでも良いです。
たくさん作品を作って、その中からアピール出来る作品を選んで、自分だけのマッペを完成させます。
私はベルリンにあるAtelier HY+のマッペクラスに1年間通って作品を製作しました。
アトリエでは、マッペを製作するには何が重要か、ドイツの美大受験の方法や、教授面接を指導してもらいました。
最初は、語学学校に通いながら自宅で作品を制作していたんです。
けれど、語学勉強に追われてしまい、作品に集中するのが難しくなったんですよね。
マッペについての情報もなかったので、1人でマッペを作って美大を受験することに限界を感じていました。
そこで、思い切ってAtelier HY+のマッペクラスに参加してみました。
Atelier HY+では、日本語とドイツ語でマッペ制作や受験についてアドバイスをしてもらえて、制作にも受験にも前向きな気持ちになれたので、すごく感謝しています。
リラックスした雰囲気で作品製作に集中できたことも良かったですね。
クラスでは、マッペ製作の他にも、デッサンやマテリアルの授業があって、これは現在でも役に立つことがあります。
ドイツでは、アカデミーによって受験前にMappenberatungという日があって、その日にマッペを持っていけば、誰でも教授やそのアカデミーの学生からアドバイスをもらうことができます。
行きたいアカデミーでMappenberatung がある場合は、必ず参加することが重要です。
受験前にマッペを見せて、アドバイスをしてもらうことは、とても大切です。
たくさんの作品を見せて、たくさんアドバイスをもらうためにも、制作は早めに開始するのも大事ですね。
私は、受験の1年前からアトリエで制作を始められたので、Mappenberatungでたくさんの作品を見せてアドバイスをもらうことができました。
留学・進学の費用はどれくらい必要?
1年間の衣食住と語学学校や製作費用を考えると、最低でも200万円は必要かなと思います。人それぞれな部分もありますけどね。
受験シーズンになると、ドイツ中を移動することにもなります。
そうなると、移動代、ホテル代、郵送費も必要になります。
留学準備中は語学勉強やマッペ製作でアルバイトをする時間もありません。
作品製作に集中すると、それこそ毎日クタクタに疲れてしまいます。
なので、日曜日やお休みの日は遊んだりして、リラックスを心がけることも海外生活では大切なポイントです。
出来るだけ、作品に集中することが大学合格への近道だと思います。
最後に、これからドイツに美術留学しようか迷っている方にメッセージ
ドイツの美大に通うことが夢でも、ドイツで生活することに不安があったり、怖くなったりして、なかなか行動に移せない人もいると思います。
私もそうでした。
留学は短い期間でたくさんの準備をこなす必要があるので、体力的にも精神的にも大変です。
それでも、助けてくれる人はいて、受験が終わった後は前よりずっと自分が強くなったように感じます。
不安があっても、それでもドイツに行ってみたいという気持ちが強くあるなら、一度軽い気持ちでもいいので、短い期間だけでもドイツに来てみるのもいいと思います。
ドイツ人は日本人のように勤勉だけど、
「やってみてダメならしょうがないし、次があるさ」
と言った調子で、どこかゆとりを持った性格の人がたくさんいます。
私も今だに製作や日々の生活の中で深く悩んでしまうこともあります。
けど、ゆとりあるドイツ人たちと知り合って、気持ちに余裕を持てるようになったんじゃないかなと思っています。
ちょっと勇気を出してとりあえず動いてみる!
これの繰り返しなんですけどね。
でも、それが大事なんだなと思う今日この頃です。
1985年生まれ
2015年よりニュルンベルク芸術アカデミー(Akademie der Bildende Kunst in Nürnberg)絵画クラスに在籍
T.Hさんが通って受験準備をした、ベルリンのアート教室『Atelier HY+』に関しては、以下でご紹介しています。
合わせて参考にしてみてください。
ではでは。
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