ベルリンでスキンヘッドの男に連れて行かれたが無傷で生還した話
もしベルリンでスキンヘッドの男に声を掛けられたら・・・
続けて「この後ヒマだよな?」と詰め寄られたら。
下手すれば命だって取られかねないし、普通の人なら絶対について行かないこの状況。
いったいこの話に乗るとどうなるのか?
まさにベルリンで声を掛けられ、正体不明のスキンヘッド野郎が私の前に立ちはだかったその時、私はふと思った。
ホイホイついて行ってみるかと。
出会いはベルリンのラーメン屋
海外で食べたことのある人なら共感してもらえると思うのだが、海外、とくにヨーロッパで食べる日本のラーメンはどうも味が違う。
- ヨーロッパ好みに寄せたスープ
- なんとなくパスタっぽい麺
- そもそも何故かスープ扱い
理由はこんなところだろうか。
日本にだってイタリア・ナポリとなんら関係のないナポリタンがあるわけだし、「イイじゃない、味くらいヨーロッパびいきしたって」 とも思うのだが、そうは言っても美味しくないラーメンほど食べて悲しいもはない。
ところが、ベルリンにはそんな常識を覆すうまいラーメン屋が存在するのである。
ヨーロッパ屈指のラーメン屋とも呼び声の高いその店はひと呼んでココロラーメン!!
ヨーロッパ風に味を寄せすぎていないスープ、適度な麺の硬さ、そして油の乗ったチャーシュー、どれを取っても味は天下一品!
聞けば日本のラーメンに惚れたドイツ人が研究と努力を重ね、秘伝の味を編み出したそうだ。
そんなベルリンのラーメン屋でまさかスキンヘッドの男に声を掛けられることになるとは。
いつものようにラーメンを注文し、カウンターでウキウキしながらラーメンを待っていたその時。
ふと隣の席から私を呼ぶハスキーボイスが。
振り向くと、そこにはスキンヘッドの男がお猪口を片手に熱い視線を私へと送っている真っ最中であった。
スキンヘッド、日本男児の私をナンパする
有名人で言うならプリズン・ブレイクのマイケル・スコフィールドを10歳老けさせて、さらに毛を全て抜いたみたいな感じ。
そしてマッチョである。
そんな男が何用なのか知らないけど、とにかく熱い視線を送ってきていた。
▼マイケル・スコフィールド
「・・・」
「すすすすすみません。何を言っているか分からんな」
スマン、英語が理解できないのだ、許せ。
というかそこは察してくれ。
「えっ……」
男はなかなか鋭いやつだった。
男の名はザックス
聞けばアメリカ出身らしく、本国ではIT系の会社で働いているらしい。
ベルリンには出張で来ているそうで、そのためドイツ語はさっぱり分からないと彼は語った。
「どうしてベルリンでラーメンを食べているのでしょうか?」
(ここラーメン屋なんだけどなぁ^^;)
スマホを取り出し、画面を近づけてくるので覗いてみることに。
「す、すごく・・・」
カリフォルニアロールが画面いっぱいに表示されていた。
胡散臭さが増した気がした。
彼の狙いはいったい・・・
アメリカの広大な土地で培われた彼の眼力。
ひとえにアツイ!
そんなに見つめなくても逃げないから、と言うかもう簡単には逃れないだろうから。
・
・
・
男が男に送る熱烈なアイコンタクト。
待てよ、これって……
ひょっとすると、
ひょっとする?
こやつ私のか弱いヒップを狙っているんじゃね?
もしや私のことを異性としてナンパしているのだろうか。あわよくばワンナイトラブ的な展開を・・・
いや、まぁ、ベルリンは同性愛に寛大な国ではあるけれど・・・
▼ベルリン ゲイパレードも
Photo by Jorg Kanngießer
私は女性が好きなノンケなのだが・・・。
聞けば仕事が終わればいつも1人、同僚はすぐに帰ってしまうらしい。
冬のベルリンは寒くて夜も長い。
寂しくなる気持ちも、誰かになぐさめてもらいたい気持ちも分からないではない。
分からないではないが、それは私の知るところでもない。
「・・・」
ついでに聞くと彼は私と同い年だそう。
(そういえば、 私もベルリンに初めて来た時すごく心細かったけ。知り合いも誰もいなかったし)
「ぐッ・・・」
流れで押し切られる。
勢いで口説き落とされる女性ってまさにこんな感じなのかもしれない。
男二人で夜のベルリンへ
「とにかく強い酒が飲みたい」という彼の要望を叶えるべく、我々は夜のベルリンへと繰り出した。
バーを2、3軒まわり、彼はウィスキーをショットでぐびぐび飲み、負けじと私もぐびぐびやった。
ドイツでは日本人はお酒を飲むとすぐ顔が真っ赤になるし、酒に弱いというイメージで知られている。ザックスが言うには、それはアメリカでも似たようなものらしい。
そう言っておきながら「まぁドンドンいきな」とウィスキーをけしかけてくるのだからタチが悪い。
酒の勢いに任せてひと思いに私をやってしまうつもりなのだろうか。
おかげで私は完全に酔っぱらった。
ところで、こう見えて私は人前で話すことがかなり苦手です。
語学学校でもボソボソ喋ってしまうせいか「何言ってるか聞こえねーよー。間違ってもいいから声だしてくれよ」と注意されたり、笑われたり、からかわれたりするのですが、お酒を飲むと一転、人が変わったかのように喋ります。
ドイツ語が喋れないならお酒を飲めばいいわ。
を地で行く私は酒を飲むと喋る男として名を馳せていた。
おかげで二日酔いに悩まされる毎日でもあったが、海外においてコミュニケーションを取れるというのは想像以上に楽しいことでもあり、つねに行け行けゴーゴー、飲め飲めドンドンである。
そして、お酒を飲んだ私は決まって調子に乗ることでも知られている。
この日もまた噂に聞いたある話を自慢気に語っていた。
「ベルリンの女たち、おごれば落ちるってよ」
そうだ、ベルリンのクラブへ行こう!
夜の街ベルリンは出会いと刺激を求める男女で溢れかえる。
聞いた話では、バーで暇する女たちはみんな男が目当てなのだとか 。
そんな話を信じ、血のたぎったザックスは怒涛の速さでスマホを操りクラブの情報をリサーチしていた。
夜もふけて、お酒もまわり、もはや彼の眼光は獲物を狩るハイエナ並に鋭く研ぎ澄まされていた。
「ドイツの夜はクラブ遊びが熱い」
というのは世界的に有名な話らしく、世のクラバー(クラブで音楽を楽しむ人たち)にとってベルリンはクラブミュージックの聖地でもあるそうだ。
ザックスは非常にできる男らしく、彼の年収は私の3倍以上。
お酒を奢ることにかけてはピカイチだった。
アイフォンを頼りに一軒のクラブハウスへとたどり着いたザックスと私。
もはやベロベロに酔っぱらい千鳥足になりながらも、クラブでの出会いに胸やら何やら膨らませ、よりいっそ尻にも力が入りつつ、テクノミュージックの流れる薄暗いクラブハウスの門を叩いた。
ベルリンには入場規制のかかる人気クラブ、黒のドレスコード推奨のクラブ、誰でもウェルカムのクラブなど大小さまざまなクラブハウスが存在する。
我々が辿り着いたクラブハウスは比較的小さめで、お金さえ払えば誰でも入れるような場所だった。
クラブ内を見てまわると、ちょうどバーカウンターの片隅に二人組の女性がいることに気がついた。
1人はジュリア・ロバーツのアゴをさらに鋭くしたような女性。
もう1人は初代スパイダーマンのヒロインMJことキルスティン・ダンストを更にふっくらさせたような女性で、二人ともドイツ人だった。
二人は芸術系の仕事に携わっているらしく、普段は画廊から絵を買ったり売ったりする仕事をこなしているという。
本日も絵を買う仕事をきっちりこなし、夜のベルリンを謳歌すべく二人でクラブ遊びに来ていた。
陽気に答える我々を見て、彼女たちはなぜか爆笑していた。
キルスティンはどこで覚えたのか日本語を少々話せるようで、頬を赤らめバーカウンターに並んだカラフルなカクテルを指さしては「カワイイ」と連呼していた。
「うん、可愛いね」
「うん、そうだね」
「・・・」
「エッ……」
あれあれ?これってカモられてる?
それとも相手にされてる?
いいや、されてなくね?
結果、3杯ほどカクテルをおごる私。
ちなみにキルスティンは「かわいい」以外の言葉は知らないらしい。
むしろカワイイだけどこで覚えたのだろうか。
それはそうと、海外では一般的に日本人男子はモテない。
有名な話なのできっと耳にしたことのある人も多いのであろうこの噂。
真相が気になり「日本人がモテないのはどうしてでしょうか?」と日本をよく知るドイツ人女学生に聞いたことがある。
すると、その理由は簡単なもので、
「背が小さい、足が短い、わき毛と下の毛がボウボウ」
だからだそう。
「あと、見た目も子供みたいだし」
だって。
それ・・・ワイのことやないか。
ザックスの様子が……
しばらくトイレで席を外し、再びバーカウンターに戻るとザックスがあらぬ行動に出ていた。
「お、お前・・・」
ジュリアとバリバリいちゃついてるじゃねぇか。
▼イメージ図
なんだこれ。
視線に気がついたザックスはなんだか恥ずかしそうに毛のない頭をポリポリかいていた。
そして
と言ってのけた。
時刻は深夜0時をゆうに超えている。
いったい何処へ行くというのか。
「え?」
今から?
良い子の寝る時間はとっくにすぎてるけど?
というかカフェもう空いてないけど。
というか、お茶??
クラブで出会った男女が行きつく先、それは、あえて筆舌する必要もない場所。
いわば聖域!
ザックスよ、言わずともそなたがどこへ行くのかは分かる。
みなまで言うな。
けれども、いや待て。
もし一緒に付いて行ったらどうなる?
いったい何が待ち受けている?
・
・
・
尻か?
尻が必要になることなのか?
「遠慮しておこう」
さらばザックス。
物惜しそうな顔を残し、ザックスは彼女の肩を抱いてクラブを後にした。
彼は今宵の寂しさを埋める相手を見つけたのだ。
喜ばしいことだ。
そしてそれは私ではなかった。
とても喜ばしいことだ。
けれど、なんだか腑に落ちないのはなぜか。寂しがっている私がいるのだろうか。
それはそうと、相方のキルスティンはどこへいったのか。
消えたキルスティン
カウンターに置き去りにされているであろうジュリアの相方を探すと、バーでしこたまカクテルを浴びていた彼女の周りには見知らぬ男たちが溢れかえっていた。
キルスティンよ、無事か!
ヒロインを助けるスパイダーマンごとく群がる男たちの波をかき分けていくと、そこに彼女の姿を発見。
「危ないところだ、これだから男はゆだんならな・・・!?」
男の群の中心、そこに君臨するキルスティン。
彼女はまんざらでもない顔を浮かべていた。
・
・
・
私は帰った。
うおおおおおおおおおおおおお!!!!
なんだよこれぇぇぇぇぇ!!!
こんなのってないよ。
あいつはオレの給料の3倍近くもらって、年齢も同じで、美女まで連れて帰るのかよ!
これだから
これだから
これだから
知らない男に付いていくべきじゃないんだよ!
ふ、ふふふ。
もういいさ。
いいんだよ、もう。
私なら大丈夫。
私にだってあるじゃないか。
毛が!
上にもわきにも下にもあるぞ。
それも、ぼうぼうにな!
後日談
翌日彼からお礼の連絡が来た。
事前に連絡先を交換していなかったのだが、律儀にも彼はフェイスブックで私を探し出してくれたようだ。
彼のメッセージを見て私は目を疑った。
もちろんイイ夜を自慢してきたからではない。
そんなことは毛がボウボウの私にすれば痛くも痒くもないのである。
帰国するならしてくれブラザー。
なんと、ザックスは偽名を使っていた。
アダ名でも何でもない
ザックスは偽名!!
彼の本当の名前はザックスから程遠い名前をしていた。
恐えよ!
やっぱり、知らない人にはついて行っちゃいかんです。
命も尻も無事だったから結果オーライだが、良い子はぜったいに真似するべからず。
ヤバくなったら逃げる。
なんて甘い考えは私だけにしておくべき。
というかダメ。
真似して何かあって苦情をよこしても知らぬ存ぜぬです。
私は逃げますよ。
ちなみに、この日の私はそこそこお金を使ったようで、豊富に入っていたサイフの中身は空になっていた。
いい金ヅルだったわけか。
ふふふ。
なかなかに海外の洗礼。
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